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+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
そんなことがあって、志摩は燐と頭を付き合わせて勉強をしていたわけで。
出掛けの雪男からこれだけは終わらせて下さい、と言われていた分は先ほど見た限りもう終わっているようなので、あとは気兼ねする必要は無い。自分のやるべきところももう終わった。
今は、目の前にある水滴をびっしり張り付かせたグラスを前に、そよぐ風を感じているだけだ。加えて何故か水羊羹まで置いてある。甘さを控えて、しかもギリギリ固まるレベルといった柔らかさのそれは、キッチリ冷えていて喉を通るだけで涼を運んで来てくれた。
さらりとした甘さに、のどごしの良さ。あんもちゃんと仕込んだものを使っているようだ。
これならこっちの菓子は甘くてかなわんとこぼしていた勝呂でも食べるかもしれへんな。そんな事を思いついて、志摩は口を開く。
「奥村くーん、この羊羹どこで買うたん?」
グラスの麦茶を飲み干しつつの志摩の言葉に燐は当たり前という風にさらりと答えるのだが。
「あ、それ?俺が作った」
「へ?つくった?奥村くんが?」
普通、作らないだろう。
しかも和菓子だ。粉を溶けば出来るインスタントのゼリーとかじゃあ無い。
「あんこと寒天と砂糖だけで作れるから、そんなに難しくねぇけど?」
まあ、あんこはさらしあん使ったけどなーとか当たり前のように言うものだから、思わず乾いた笑いがでてしまう。あんこを炊く事だって、日常的に行うとなると自分の記憶では家でみた覚えは無い、むしろ盆正月彼岸にみられればいいくらいのものだった筈だ。
「普通作らへんでしょう……」
「得意だからさ、料理。まあうちで食べるようなのしかつくんねぇけど」
へぇ。と志摩は目をむく。
到底こういう事が苦手なのだろうと思っていたのに、と思ってからふと以前学校で噂になっていた事を思い出す。昼時にだけ開いていた調理室の定食屋。確か名前は。
「ああ、そう言えば……奥村屋…やったっけ?前にガッコでなんかやってはったらしいねぇ」
「ああ、昼飯の……結構いい稼ぎだったんだけど、生活費上げてもらってからはやってねぇや」
カラリと、グラスの中の氷が音を立てる。
足しとくぜ。と言いながら燐がグラスに麦茶を注ぎ足した。
「……そんな、リアルな話せんでも……」
「だって二千円だぜ!有り得ねぇっての!今はもうちょっと増やしてもらってるから、まあ何とか……毎日の食費とか、弁当の分は雪男も出してくれるからそこからやりくりしてるけど」
「へー、やりくり……へ?」
スルーッと流しそうになって、志摩ははたと思考を止める。
志摩達がいる寮は、食事は朝夕きちんと出て来る。昼は学食もあるし、購買もあるからそれでまかなえるの、だが。
食費?
やりくり?
「え、てか、食事は寮で貰えるやないか」
「だってここ、俺らしかいねぇし。掃除は来てるみたいだけど、食事は基本俺が作ってる」
「作ってる?三食?」
はてなマークを飛ばしっぱなしの志摩に、逆に燐が首を傾げた。
「朝はゆきが用意してくれるけど、準備は夜のうちに俺がしてるから…って、どした?」
ちょっとまって。
なんや、この会話。
まるでどっかの主婦と話してるみたいや。
いやむしろ新妻、若奥様、新婚……って。
目の前にいるのは、同じ学年の男。
この会話は、一体なんや!
つ、と汗が流れる。
雪男と話した時のそれとは全く違うが、また何か、いやな予感を伝えて来そうなそれ。
聞きたい事は、ある。
突っ込んだ事も、たわいのない事も、あるけれど。
これは、一体。
「あんのー、奥村くん?ここって他の人、おらんの?」
「おらんよー」
にぱーっと、もの凄い笑顔で志摩の真似をした口調が返ってきたが、ますます志摩は混乱していく。
二人っきりで、食事も作ってて、まあ一人暮らしとかで学校通っているならある事ではあるのだが、この学園は全寮制が基本だから普通は食事はでるものだろうけど。
そうやってぐるぐるしだした瞬間、燐が笑い顔のままに手をひらひらと振った。
「多分、その分学費とか安くしてもらってんだと思うぜ。こんなボロ寮、そうでもなきゃ住まないって」
「……せ、せやなぁ」
そうだ。考えるまでもない事だった。
旧寮は、本来使われていないのだ。この二人がここにいるのは、理事長の指示であろうから、きっとそう言う台所事情が関わって来るのだろう。それは、それでひとまず頭の奥に追いやっておく。
ふぅ、と息一つついて、氷が溶け切った麦茶を一息に飲み干す。
「麦茶、まだいるか?」
「もらうわ」
そして、ボトル片手に燐が身を乗り出した、その時だった。
「………?」
首の付根、というか、鎖骨の端。
ポチリと小さな、赤いあと。
乗り出してきたせいで、先まで見えなかった首の辺りが見えて、それが覗いたのだ。
虫刺され、では無い。というか勝呂や子猫丸ならそう言いそうだ、が。
そこはエロ魔神の名を冠していた志摩だ。一瞬で鬱血痕だと理解して。
理解して、しまったものだから。
「………って、え、ええええええええええ?」
思わずずさぁ!と後ろに下がってしまう。
鬱血痕だ、しかもぶつけたとかじゃ無い、明らかに間違いなく紛れも無くそれは。
一気に汗が噴き出した。頭の中をぐるぐる思考が回転するが、一瞬で聞くべき事を掬い上げて口に乗せていく。
「ちょ、奥村くん、聞いてええ?」
「……なんだよぅ」
いきなり後ろに下がりその体勢のまま汗流して笑い顔を浮かべる、という非常に奇妙な行動に出た志摩を胡散臭そうに見つつ燐はボトルを置いて眉を潜める。
「彼女、おる?」
瞬間、空気が止まった。
「────は、あぁぁぁぁぁ?い、いねぇよ!いる訳ねぇじゃん!」
たっぷり一分はあっただろうか、そこから復活して叫ぶ燐の顔はしっかり真っ赤だ。
ぶんぶんと振られている首をあの慌て様を見る限り、嘘では無いと思い直して志摩はぐっと真面目な顔を作ってみる。
「奥村くん……まさか学費身体で払っとるとか」
「なんだよそれマジ有り得ねぇ!んなこと言うなよ気持ち悪ぃ!」
この質問に関してはかなり不快だったらしく、本気で嫌がっているようだ。というかむしろこの質問で嫌がったり怒ったりしない方がおかしいと思うが。
「そ、そうや、ねぇ……はははは」
「なんだよさっきからいきなり……」
うんざりという顔をして眉を寄せた燐の顔に、これは遠回しは通用しないと思い直し。
「んー、じゃあ、単刀直入に行こか」
志摩は、自分の鎖骨のその辺りをとん、と指で叩く。
「左の鎖骨、痕、あるよ。まあ、他にもあるみたいやけど?」
放たれた言葉を理解するまで数秒。
見る間に燐の顔が赤くなり、それが一瞬で青ざめて。
「で、それ────どないしたん?」
に、と志摩の浮かべた笑みは、燐の言葉を奪うには充分すぎるほどの破壊力を持って、いた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
エロ魔神の洞察力ktkr!(爆笑)
これを置き土産にちょっくら大阪行ってきます!
そんなことがあって、志摩は燐と頭を付き合わせて勉強をしていたわけで。
出掛けの雪男からこれだけは終わらせて下さい、と言われていた分は先ほど見た限りもう終わっているようなので、あとは気兼ねする必要は無い。自分のやるべきところももう終わった。
今は、目の前にある水滴をびっしり張り付かせたグラスを前に、そよぐ風を感じているだけだ。加えて何故か水羊羹まで置いてある。甘さを控えて、しかもギリギリ固まるレベルといった柔らかさのそれは、キッチリ冷えていて喉を通るだけで涼を運んで来てくれた。
さらりとした甘さに、のどごしの良さ。あんもちゃんと仕込んだものを使っているようだ。
これならこっちの菓子は甘くてかなわんとこぼしていた勝呂でも食べるかもしれへんな。そんな事を思いついて、志摩は口を開く。
「奥村くーん、この羊羹どこで買うたん?」
グラスの麦茶を飲み干しつつの志摩の言葉に燐は当たり前という風にさらりと答えるのだが。
「あ、それ?俺が作った」
「へ?つくった?奥村くんが?」
普通、作らないだろう。
しかも和菓子だ。粉を溶けば出来るインスタントのゼリーとかじゃあ無い。
「あんこと寒天と砂糖だけで作れるから、そんなに難しくねぇけど?」
まあ、あんこはさらしあん使ったけどなーとか当たり前のように言うものだから、思わず乾いた笑いがでてしまう。あんこを炊く事だって、日常的に行うとなると自分の記憶では家でみた覚えは無い、むしろ盆正月彼岸にみられればいいくらいのものだった筈だ。
「普通作らへんでしょう……」
「得意だからさ、料理。まあうちで食べるようなのしかつくんねぇけど」
へぇ。と志摩は目をむく。
到底こういう事が苦手なのだろうと思っていたのに、と思ってからふと以前学校で噂になっていた事を思い出す。昼時にだけ開いていた調理室の定食屋。確か名前は。
「ああ、そう言えば……奥村屋…やったっけ?前にガッコでなんかやってはったらしいねぇ」
「ああ、昼飯の……結構いい稼ぎだったんだけど、生活費上げてもらってからはやってねぇや」
カラリと、グラスの中の氷が音を立てる。
足しとくぜ。と言いながら燐がグラスに麦茶を注ぎ足した。
「……そんな、リアルな話せんでも……」
「だって二千円だぜ!有り得ねぇっての!今はもうちょっと増やしてもらってるから、まあ何とか……毎日の食費とか、弁当の分は雪男も出してくれるからそこからやりくりしてるけど」
「へー、やりくり……へ?」
スルーッと流しそうになって、志摩ははたと思考を止める。
志摩達がいる寮は、食事は朝夕きちんと出て来る。昼は学食もあるし、購買もあるからそれでまかなえるの、だが。
食費?
やりくり?
「え、てか、食事は寮で貰えるやないか」
「だってここ、俺らしかいねぇし。掃除は来てるみたいだけど、食事は基本俺が作ってる」
「作ってる?三食?」
はてなマークを飛ばしっぱなしの志摩に、逆に燐が首を傾げた。
「朝はゆきが用意してくれるけど、準備は夜のうちに俺がしてるから…って、どした?」
ちょっとまって。
なんや、この会話。
まるでどっかの主婦と話してるみたいや。
いやむしろ新妻、若奥様、新婚……って。
目の前にいるのは、同じ学年の男。
この会話は、一体なんや!
つ、と汗が流れる。
雪男と話した時のそれとは全く違うが、また何か、いやな予感を伝えて来そうなそれ。
聞きたい事は、ある。
突っ込んだ事も、たわいのない事も、あるけれど。
これは、一体。
「あんのー、奥村くん?ここって他の人、おらんの?」
「おらんよー」
にぱーっと、もの凄い笑顔で志摩の真似をした口調が返ってきたが、ますます志摩は混乱していく。
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そうやってぐるぐるしだした瞬間、燐が笑い顔のままに手をひらひらと振った。
「多分、その分学費とか安くしてもらってんだと思うぜ。こんなボロ寮、そうでもなきゃ住まないって」
「……せ、せやなぁ」
そうだ。考えるまでもない事だった。
旧寮は、本来使われていないのだ。この二人がここにいるのは、理事長の指示であろうから、きっとそう言う台所事情が関わって来るのだろう。それは、それでひとまず頭の奥に追いやっておく。
ふぅ、と息一つついて、氷が溶け切った麦茶を一息に飲み干す。
「麦茶、まだいるか?」
「もらうわ」
そして、ボトル片手に燐が身を乗り出した、その時だった。
「………?」
首の付根、というか、鎖骨の端。
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乗り出してきたせいで、先まで見えなかった首の辺りが見えて、それが覗いたのだ。
虫刺され、では無い。というか勝呂や子猫丸ならそう言いそうだ、が。
そこはエロ魔神の名を冠していた志摩だ。一瞬で鬱血痕だと理解して。
理解して、しまったものだから。
「………って、え、ええええええええええ?」
思わずずさぁ!と後ろに下がってしまう。
鬱血痕だ、しかもぶつけたとかじゃ無い、明らかに間違いなく紛れも無くそれは。
一気に汗が噴き出した。頭の中をぐるぐる思考が回転するが、一瞬で聞くべき事を掬い上げて口に乗せていく。
「ちょ、奥村くん、聞いてええ?」
「……なんだよぅ」
いきなり後ろに下がりその体勢のまま汗流して笑い顔を浮かべる、という非常に奇妙な行動に出た志摩を胡散臭そうに見つつ燐はボトルを置いて眉を潜める。
「彼女、おる?」
瞬間、空気が止まった。
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たっぷり一分はあっただろうか、そこから復活して叫ぶ燐の顔はしっかり真っ赤だ。
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「奥村くん……まさか学費身体で払っとるとか」
「なんだよそれマジ有り得ねぇ!んなこと言うなよ気持ち悪ぃ!」
この質問に関してはかなり不快だったらしく、本気で嫌がっているようだ。というかむしろこの質問で嫌がったり怒ったりしない方がおかしいと思うが。
「そ、そうや、ねぇ……はははは」
「なんだよさっきからいきなり……」
うんざりという顔をして眉を寄せた燐の顔に、これは遠回しは通用しないと思い直し。
「んー、じゃあ、単刀直入に行こか」
志摩は、自分の鎖骨のその辺りをとん、と指で叩く。
「左の鎖骨、痕、あるよ。まあ、他にもあるみたいやけど?」
放たれた言葉を理解するまで数秒。
見る間に燐の顔が赤くなり、それが一瞬で青ざめて。
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「な、腹へらね?」
突然かかった声に、雪男は追っていた文字から視線をあげる。
「…言われてみれば。今日朝昼兼だったもんね」
「まあな」
任務で帰宅が遅かったせいで、今朝は起きた時間がかなり遅かった。しかも気を利かせてくれたのか解らないが、燐が自分が起きてもそのまま寝かせてくれていた。お陰で疲労感など微塵もない。しかし動き始める時間は自然遅くなったわけで。
朝昼兼ねての食事を終え、特急で報告書をまとめ送ってしまえば無罪放免。ようやっとひと心地付いたのは小一時間ほど前で、雪男はリビングで持ち帰ったグリモアールの解読をしていたのだ。
「じゃあ、なんかつくるか……ホットケーキでいいか」
「そうだね、久々に食べたいかも」
頭を使うと甘いものが欲しくなるのは生理的なものだ。雪男自身は余り甘いものが得意という訳ではないが、時折無性に食べたくなる事だってある。それを燐は見越していたのだろうか。
「おう、じゃあちょっとまってろ」
一つ頷くと、冷蔵庫からボールを取り出してラップを外して。
「兄さん、作ってたの?」
「んー、なんかそんな気がしてさ。食べなきゃ明日の朝にでも焼くかと思ってたし」
取り上げた木べらを差し入れ、オリーブオイルを取り上げて少しだけ生地に垂らすと素早く馴染ませる。
「俺らって、そんなもんじゃね?」
「確かに」
食べたいと思うものが帰ると用意してあったり、別にいるという訳でもなく買ったものが相手の必要なものだったり。そんな交感的な事が頻繁にあるのだ。それを気持ち悪いと思った事は無いし、幼いころだから当たり前だと思っていたので、今更と思えばそれまでだが周囲には奇妙に映る事もあるようで。
「そういや、こないだ勝呂がお前が使い切った咒符俺が懐から出した時ビビってたもんな」
「あー、なんで出て来る!とか言ってたあれ?」
「俺使わないからな、あれ」
それは簡単な結界符だった。しかし燐の張る結界にこういったものは必要ないので何故、と言う事になったのだろう。
「一応持ってるには持ってんだけどなー」
「兄さんのつくる符は文字間違ってる事多いから」
「……薮蛇かよ」
「頑張ってちゃんとかけるようになってね。この間のは大丈夫だったけど土壇場で使えないと結構キツいから」
「へーへー、りょーかーい」
じゅ、とフライパンに生地が落とされる。少しずつ、部屋の中が甘い香りで満たされ始めた。
「あー、こういうのしあわせだな」
「ん?」
ぱたぱた響く足音と、暖かな温度と、あまやかな香り。
「平和だな、って」
「そうだな」
別の鍋に落としたのかバターの溶けていく香りが加わって。
優しい時間が、流れていく。
「毎日こうだと、いいのに」
「俺達は食い扶持失うけどな」
はは、と笑いながら返った言葉に、雪男はくつりと嗤って、それでも静かに言葉を落とす。
「でも、なにもないほうが、いいよ」
「…そうだ、な」
何も無ければ、祓魔師としての仕事はない。でも、それは自分たちの役目も終わる事で、この血塗れた路が終わる事に繋がるかもしれない。
「そうなるために、だもんな」
「だから今だけ、でも」
「うん」
この、穏やかな時を、今だけでも。
それが何時か、永遠に続く事を願って、過ごそう。
「お茶、入れろよ。もう出来るから」
「了解」
焼き上がったホットケーキが皿に盛られ始めたのが見える。
ポットの再沸騰ボタンを押すと、雪男はお茶の葉を取り上げてそっと、笑った。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「……で、なんでベイクドバナナ添えでチョコソースなの?」
「べ、別にバレンタインとか関係ないからな!バナナとチョコが安かっただけで!」
「はいはいわかったわかった可愛い言い訳は言わなくていいから」
「言い訳じゃねぇー!」
とか言うネタを書きたかっただけなんだけどなんでこうなった。おかしいな。
時間軸的には大人兄弟的な。
「な、腹へらね?」
突然かかった声に、雪男は追っていた文字から視線をあげる。
「…言われてみれば。今日朝昼兼だったもんね」
「まあな」
任務で帰宅が遅かったせいで、今朝は起きた時間がかなり遅かった。しかも気を利かせてくれたのか解らないが、燐が自分が起きてもそのまま寝かせてくれていた。お陰で疲労感など微塵もない。しかし動き始める時間は自然遅くなったわけで。
朝昼兼ねての食事を終え、特急で報告書をまとめ送ってしまえば無罪放免。ようやっとひと心地付いたのは小一時間ほど前で、雪男はリビングで持ち帰ったグリモアールの解読をしていたのだ。
「じゃあ、なんかつくるか……ホットケーキでいいか」
「そうだね、久々に食べたいかも」
頭を使うと甘いものが欲しくなるのは生理的なものだ。雪男自身は余り甘いものが得意という訳ではないが、時折無性に食べたくなる事だってある。それを燐は見越していたのだろうか。
「おう、じゃあちょっとまってろ」
一つ頷くと、冷蔵庫からボールを取り出してラップを外して。
「兄さん、作ってたの?」
「んー、なんかそんな気がしてさ。食べなきゃ明日の朝にでも焼くかと思ってたし」
取り上げた木べらを差し入れ、オリーブオイルを取り上げて少しだけ生地に垂らすと素早く馴染ませる。
「俺らって、そんなもんじゃね?」
「確かに」
食べたいと思うものが帰ると用意してあったり、別にいるという訳でもなく買ったものが相手の必要なものだったり。そんな交感的な事が頻繁にあるのだ。それを気持ち悪いと思った事は無いし、幼いころだから当たり前だと思っていたので、今更と思えばそれまでだが周囲には奇妙に映る事もあるようで。
「そういや、こないだ勝呂がお前が使い切った咒符俺が懐から出した時ビビってたもんな」
「あー、なんで出て来る!とか言ってたあれ?」
「俺使わないからな、あれ」
それは簡単な結界符だった。しかし燐の張る結界にこういったものは必要ないので何故、と言う事になったのだろう。
「一応持ってるには持ってんだけどなー」
「兄さんのつくる符は文字間違ってる事多いから」
「……薮蛇かよ」
「頑張ってちゃんとかけるようになってね。この間のは大丈夫だったけど土壇場で使えないと結構キツいから」
「へーへー、りょーかーい」
じゅ、とフライパンに生地が落とされる。少しずつ、部屋の中が甘い香りで満たされ始めた。
「あー、こういうのしあわせだな」
「ん?」
ぱたぱた響く足音と、暖かな温度と、あまやかな香り。
「平和だな、って」
「そうだな」
別の鍋に落としたのかバターの溶けていく香りが加わって。
優しい時間が、流れていく。
「毎日こうだと、いいのに」
「俺達は食い扶持失うけどな」
はは、と笑いながら返った言葉に、雪男はくつりと嗤って、それでも静かに言葉を落とす。
「でも、なにもないほうが、いいよ」
「…そうだ、な」
何も無ければ、祓魔師としての仕事はない。でも、それは自分たちの役目も終わる事で、この血塗れた路が終わる事に繋がるかもしれない。
「そうなるために、だもんな」
「だから今だけ、でも」
「うん」
この、穏やかな時を、今だけでも。
それが何時か、永遠に続く事を願って、過ごそう。
「お茶、入れろよ。もう出来るから」
「了解」
焼き上がったホットケーキが皿に盛られ始めたのが見える。
ポットの再沸騰ボタンを押すと、雪男はお茶の葉を取り上げてそっと、笑った。
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「……で、なんでベイクドバナナ添えでチョコソースなの?」
「べ、別にバレンタインとか関係ないからな!バナナとチョコが安かっただけで!」
「はいはいわかったわかった可愛い言い訳は言わなくていいから」
「言い訳じゃねぇー!」
とか言うネタを書きたかっただけなんだけどなんでこうなった。おかしいな。
時間軸的には大人兄弟的な。
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そもそも、志摩がこんなところに来たのはこの奥村燐という物体とちょっと話がしてみたいと思ったのがはじまりだった。いつもいつも勝呂と突っかかってばかりの彼は、実はその詳細を誰もが詳しく知る事が無い。というよりも、奥村兄弟の事は余り語られていないのだ。ただ、藤本神父の養子であったという事くらいしか。
そして、彼がこの世界の事を知らぬままにここに来ているのだ、という事実。
興味が、無いと言ったら嘘に決まっている。
全く何も知らぬまっさらの者がこの塾に来るという辺りで既に型破りなのだ。しかも弟は天才と言われる祓魔師。しかもたった一人で屍を倒すなどという無謀を成し遂げてしまう程の実力を持っている。ただしどうやって倒したのかは文字通り闇の中なのだが。
見た感じでは、ただの阿呆でしかない。
無茶で無謀で、理想高くて跳ねっ返りで。
人懐っこいのに、ひとりでいたがる、そんなたちで。
頭の出来をさっ引けば何となく勝呂に近いが、似ているという訳でもない。
観察していたけれど、埒があかなくなって来た。
ならばここは、直接あたってみた方が早いのだろうか、と思いついたのだ。
何事も、話してみなければ解らない。
その相手がまあ、好みの顔の可愛い女の子では無いという事だけは目を瞑っておく事にして。
取り急ぎ、保護者兼家族に許可が必要だろうと放課後の雑多としている学校内で雪男を見つけて話しかけたのだ、が。
「……兄さんを、貸す?」
「せや。一日でえぇんよ。ちょっと勉強がてら話したいなぁ思て」
ふぅむ、と雪男は唇に指を置いて目を伏せる。
グラスの下、思ったより長い睫毛が影を落としてその青い瞳を黒く彩った。
顔は余り似ていないのは二卵性なのだろうと勘付けていたが、その青い瞳に宿る光は本当によく似ている。意志の強さを示すようなそのセレストブルーはこうして考え込むと時折青みを強くすると気が付いたのは最近だった。そこまで観察する自分に暇やなとも思ったが、まあ観察は何事も必要なのだから、それはそれでよしとする。
「三日後、土曜日、なら」
うん、と一つ頷き、雪男は顔を上げた。
「なんか理由ありますのん?」
「いえ…ちょっと土曜に、半日ほど留守にするんです。かわりに勉強の監視を頼めれば有難いんですが」
「任務かなんか?」
重ねた言葉に、雪男の視線が思い切り泳いだ。
「えーと、任務ではないんですけど…私的な調べものがあって、ですね。勝呂君に手伝ってもらおうかと思って、まして」
だが、その言葉は何だか非常に歯切れが悪い。
「センセ、なんです、調べものて」
勝呂に手伝いを、と言ってはいるが、どこかその様子はおぼつかない様子で。候補生となって簡単な任務の手伝いをするようになると聞いていたがそれとはどうも違うようだ。疑問に少し強まった語彙に気付いたのか、言葉を濁していた雪男はううん、と唸って息をつく。
「フェレス卿が、京都にお寺を見に行きたいとか言ってるんですよ、その下調べをしろと煩くて……」
ああ、なるほど。それなら納得がいったと志摩は手を打った。
自分たちが京都出身と知った上で、真面目な旅行、となれば勝呂であればそのコース選びに勝呂は適任だろう。自分ではデートコースだの人気の無い絶好ポイントだのそんなものばかり並べてしまいそうだ。
「それは難儀な……」
はは、と笑って返した言葉に、本当にといつもの苦笑が返って来ると思っていたのだけれど。
「あの、ピエロが」
ちいさくこぼれたそれは、間違い無い上司への悪態と舌打ち。
ぎょっとして見れば、雪男の顔に濃い影が落ちている……ような気が、する。
「せ、せん、せ?」
「なんでもありませんよ」
瞬時に、影は消え去り苦笑が浮かぶのだが、何処かその笑顔は笑っているようで笑っていない。
背に流れた汗が、暑さのものだと願いつつ志摩は、じゃあ三日後お兄さんお借りしますわとだけ言ってその場をあとにしたのだ。
奥村雪男という人間は、その性根に恐ろしいものを隠している。
流石の志摩も、この時ばかりは笑顔を取り繕う事すら忘れていた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
黒雪降臨。
むしろメフィの無茶ぶりの方が書いてて気になったのは何故だろう…
以前になつやすみとしゅくだいとというタイトルであげたのの改訂です。
ま、まさかまだ夏休みじゃなかったとは……!
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
じわじわと、時期早い蝉時雨が聞こえる。
ただでさえ空調も無い旧寮だ、開け放たれた窓から吹き込む風だけがたよりのこの状態で、蝉の声は正直暑さをますだけにしかならない。
だが、暑いとこぼしはしても、目の前のノートから目を離そうとはしない双児の兄の方を見て、志摩は正直に驚いていた。
勉強は苦手だというのは授業を見ていれば解る。下手すれば、義務教育過程ですら若干危ういのでは無いかとすら。そんな状態で塾に来ているのだから通常なら ば出逢う事も無い特殊な読み方をする漢字を読むのにも四苦八苦しているのだろう。しかも、今までこういった世界とは全くの無関係だという事が、彼にとって 大きなハードルなのだ。
あの藤本神父の元におったらしいのに、なぁ。
そう思ってはみたものの、燐も雪男もこの事に着いて自分から話す事は無かったし、何度無く聞き辛いような気配すら感じられる。何しろ弟は現役祓魔師であるのに兄は一般人だったなどという事は普通に考えてあり得ないのだ。
こういうものは、まず『血』が全てを物語る。どんな力であってもその扱う家系の血が強ければ強いほどそれは顕著に露見する。力を支える土台でもあるその血とのバランスが危ういものとなれば、それは何れその身から枯れるか溢れ、どちらにしろ取り返しのつかない結果を見出すのだ。
勝呂は、その血の支えを持っている。出雲もそうなのだろう。
だけども、自分はの血の系図は、皆無といってもいい。
むしろ何故と問われてしまうほどに、家系にいる祓魔師の数は数えるほど。それは変異と言われるであろう、遺伝上に異質な形で突如浮かび上がって来る異能のそれだ。そしてその、僅かな血筋が持っているのは詠唱の力。なのに唯一の詠唱に関してもそれほど上手く出来ているとは思えない。どちらと言えば護り戦う方が得意でもあるのだが、それもまだ半端なまま。
今は、まだ半端でも仕方は無い。
だけど、何時か道を選ぶ時に何か一つ攫み取る事が出来るのか。
それを、見定めねば何時か足下から崩れるのは見えている。
目の前の阿呆は、それでも確かに何かを見定めているのだ。
それは、勝呂と同じく、はっきりとした決意が根底にある。
だから、無謀な事を出来るのだろうか。
だから、そんな迷いの無い目をしているのだろう、か。
「……志摩?どした?」
ひらひらと、目の前で掌が揺れていた。
「あ、ああ、なんでもないよ。ちょっとぼけーとしてしもたわ」
笑って、テキストに視線を落とす。
「まだ、おわんねぇの?」
「ん?奥村くんは終わったん?」
「ゆきがやっとけって言った分は、何とか……」
見てみれば、召還円の初歩の初歩の仕組みを書かれたテキスト…と言うか、コピーが簡単に製本されたものがあって、何とかその設問全てが埋められていた。
「ちょお、見せてぇな?」
ん、と頷く燐をそのままに、志摩はそのテキストを取り上げてぱらりと頁を捲る。
「あっちくね?」
「んー、これくらいは平気やね。京都はもっとあっついよ」
「へー。そうなんだ」
なるほど、これは解りやすいと志摩は素直に驚いた。
下手な教則本よりも的確に要点を示し、小難しい事よりも実践的に必要な事だけを伝えて来るのだ。
「これ、センセが作ったん?」
「ああ、あいつが俺用にって。壊滅的にバカだからな俺……」
「ははは、ま、しゃーないんちゃう?」
「く、くそ、いいかえせねぇ……!」
解れている前髪をくしゃとかきあげて燐が剥れっ面になっているのを笑いながら、志摩はそのテキストを燐の手元に戻す。
「でも、答えはあってる。よぉできてるよ」
「ほんとか?」
「ほんま。あってるえ」
うしゃ!と小さくガッツポーズをする燐を見ていると、本当に嬉しいのだなと解る。とかくストレートな表現をするのに、彼が何処か一線を引いている気がしてならないのだが、今日はそうでもないようだ。
「まってぇな、俺もこの問題終わったら一段落やさか。そしたら休憩にしよか」
「おう。じゃあ、なんか飲み物取って来るよ」
「おおきに」
立ち上がる燐の背中を見送って、志摩はノートにペンを走らせた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
お勉強会ですよー。
ま、まさかまだ夏休みじゃなかったとは……!
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
じわじわと、時期早い蝉時雨が聞こえる。
ただでさえ空調も無い旧寮だ、開け放たれた窓から吹き込む風だけがたよりのこの状態で、蝉の声は正直暑さをますだけにしかならない。
だが、暑いとこぼしはしても、目の前のノートから目を離そうとはしない双児の兄の方を見て、志摩は正直に驚いていた。
勉強は苦手だというのは授業を見ていれば解る。下手すれば、義務教育過程ですら若干危ういのでは無いかとすら。そんな状態で塾に来ているのだから通常なら ば出逢う事も無い特殊な読み方をする漢字を読むのにも四苦八苦しているのだろう。しかも、今までこういった世界とは全くの無関係だという事が、彼にとって 大きなハードルなのだ。
あの藤本神父の元におったらしいのに、なぁ。
そう思ってはみたものの、燐も雪男もこの事に着いて自分から話す事は無かったし、何度無く聞き辛いような気配すら感じられる。何しろ弟は現役祓魔師であるのに兄は一般人だったなどという事は普通に考えてあり得ないのだ。
こういうものは、まず『血』が全てを物語る。どんな力であってもその扱う家系の血が強ければ強いほどそれは顕著に露見する。力を支える土台でもあるその血とのバランスが危ういものとなれば、それは何れその身から枯れるか溢れ、どちらにしろ取り返しのつかない結果を見出すのだ。
勝呂は、その血の支えを持っている。出雲もそうなのだろう。
だけども、自分はの血の系図は、皆無といってもいい。
むしろ何故と問われてしまうほどに、家系にいる祓魔師の数は数えるほど。それは変異と言われるであろう、遺伝上に異質な形で突如浮かび上がって来る異能のそれだ。そしてその、僅かな血筋が持っているのは詠唱の力。なのに唯一の詠唱に関してもそれほど上手く出来ているとは思えない。どちらと言えば護り戦う方が得意でもあるのだが、それもまだ半端なまま。
今は、まだ半端でも仕方は無い。
だけど、何時か道を選ぶ時に何か一つ攫み取る事が出来るのか。
それを、見定めねば何時か足下から崩れるのは見えている。
目の前の阿呆は、それでも確かに何かを見定めているのだ。
それは、勝呂と同じく、はっきりとした決意が根底にある。
だから、無謀な事を出来るのだろうか。
だから、そんな迷いの無い目をしているのだろう、か。
「……志摩?どした?」
ひらひらと、目の前で掌が揺れていた。
「あ、ああ、なんでもないよ。ちょっとぼけーとしてしもたわ」
笑って、テキストに視線を落とす。
「まだ、おわんねぇの?」
「ん?奥村くんは終わったん?」
「ゆきがやっとけって言った分は、何とか……」
見てみれば、召還円の初歩の初歩の仕組みを書かれたテキスト…と言うか、コピーが簡単に製本されたものがあって、何とかその設問全てが埋められていた。
「ちょお、見せてぇな?」
ん、と頷く燐をそのままに、志摩はそのテキストを取り上げてぱらりと頁を捲る。
「あっちくね?」
「んー、これくらいは平気やね。京都はもっとあっついよ」
「へー。そうなんだ」
なるほど、これは解りやすいと志摩は素直に驚いた。
下手な教則本よりも的確に要点を示し、小難しい事よりも実践的に必要な事だけを伝えて来るのだ。
「これ、センセが作ったん?」
「ああ、あいつが俺用にって。壊滅的にバカだからな俺……」
「ははは、ま、しゃーないんちゃう?」
「く、くそ、いいかえせねぇ……!」
解れている前髪をくしゃとかきあげて燐が剥れっ面になっているのを笑いながら、志摩はそのテキストを燐の手元に戻す。
「でも、答えはあってる。よぉできてるよ」
「ほんとか?」
「ほんま。あってるえ」
うしゃ!と小さくガッツポーズをする燐を見ていると、本当に嬉しいのだなと解る。とかくストレートな表現をするのに、彼が何処か一線を引いている気がしてならないのだが、今日はそうでもないようだ。
「まってぇな、俺もこの問題終わったら一段落やさか。そしたら休憩にしよか」
「おう。じゃあ、なんか飲み物取って来るよ」
「おおきに」
立ち上がる燐の背中を見送って、志摩はノートにペンを走らせた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
お勉強会ですよー。
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「雪、また降ってきた」
仰げば、空から落ちる真綿のような、白いそれ。
吐き出す息も白く、そして世界もただただ、白に閉ざされる。
「どうしようか。完全にはぐれたね……」
「どっかでビバーグするにしても……」
任務で、訪れた場所だった。チームは総勢六人、ただただ山間の獣道と言ってもいいような道を進んでいただけなのに、突然吹き荒れた吹雪の中、前を歩いていた他の面子の姿が掻き消えたのだ。
「何処かの岩盤に横穴でも開ける…訳にはいかねぇよなぁ」
とにかく、見えるのは続く白樺と真白な雪、その中に埋もれるように見える熊笹の緑。
青天だった空は、灰色に姿を変えていて、位置を示す陽光すら捉えられない。
「霊的なものは感じないけど…これ、結界だね」
「ってーことは……裂け目かなんか見つけなきゃならんってことだな」
雪男の言葉に、燐がポケットを探って何かを掴み出すとそれをぽいと投げ落とす。
ころりと転がったそれを見つめ、燐はす、と深く森の空気を吸い込んだ。
『われねがう、このもりにありしわれがらたましいとひとしきものにねがう』
それは、小さな小石だ。ただ違うのは、真ん中に穴を穿たれているという事か。
それに向かい、静かに、まるで歌うようにその言葉が舞い降りる。
『よわきいしのよわきがゆえに、つよきたましいのたけきにながれ、そのゆくすえにわれらがみちをしめさんことを』
言葉を紡ぎ終えると同時に、その石はころころと転がりだした。雪の上だというのにその上に跡もつけず、重力を感じる事も雪球になる事も無いと言わんばかりに前へ前へとゆっくりゆっくり転がっていく。
「やっぱり兄さんはこっち方面の方に特化してるんだよねぇ…」
「るせぇ。禊とか祝詞は反作用喰らうだけなんだから仕方ねぇだろ」
そう、それはこの物質界に住う今は僅か残った神と呼ばれしものの言霊。
どちらかと言えば悪魔に近い彼等の持つ力を借りるそれは、祓魔師が主立って遣う祝詞などと違い、何かしらの穢れが付きまとう。故に祓魔師でも使うものは稀で、それを使いこなす事は魔に近づくという事でもあるから余りいい顔をされないのも事実。
だが、兄の場合はその身が持つ特性故に、彼等に愛されその力を使役する事を赦されていた。しかも契約無しの施行であるのだから、その度合いがいかほどのものかが伺える。
魔でありながら、こちら側で人として生きる、はざまのものである燐のどこを彼等が気に入ったのかは解りはしない。でも、燐は彼等の教えを素直に受け、その術を手に入れた。
普段は余り使わないようにしているものではあったが、こういった二人きりや見知った面子との任務限定で、燐は必要と判断した時だけその技を使う。そしてその術は、何処か優しい色をしているのも事実、だった。
「まあ、この森は俺達を嫌ってはいないってことだけは解ったし」
そして、術は使う場所に存在する彼等の力を借りて施行される。
石が転がりだしたという事は、燐も、側にいる雪男も害無き者と認められたという事だ。
「さて、あっちに何かあるみたいだな」
「鬼が出るか、蛇が出るか…むしろ僕等が鬼扱いかもしれないけど」
「まあ、そんときはそんときで」
転がる石の指し示す道へ、足先を向ける。
目の前は、未だ舞い飛ぶ白い雪の欠片に閉ざされていた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
雪が積もるもんだからちょっと思いついて書き殴り。
聖句とか祝詞だと悪魔やっつけちゃうだろうから、何か無いかと思って考えて結局ここにおちついた……もりのおおさまはつよいんだぞー。
てゆーか つ づ か な い ぞ ?(脱兎)
「雪、また降ってきた」
仰げば、空から落ちる真綿のような、白いそれ。
吐き出す息も白く、そして世界もただただ、白に閉ざされる。
「どうしようか。完全にはぐれたね……」
「どっかでビバーグするにしても……」
任務で、訪れた場所だった。チームは総勢六人、ただただ山間の獣道と言ってもいいような道を進んでいただけなのに、突然吹き荒れた吹雪の中、前を歩いていた他の面子の姿が掻き消えたのだ。
「何処かの岩盤に横穴でも開ける…訳にはいかねぇよなぁ」
とにかく、見えるのは続く白樺と真白な雪、その中に埋もれるように見える熊笹の緑。
青天だった空は、灰色に姿を変えていて、位置を示す陽光すら捉えられない。
「霊的なものは感じないけど…これ、結界だね」
「ってーことは……裂け目かなんか見つけなきゃならんってことだな」
雪男の言葉に、燐がポケットを探って何かを掴み出すとそれをぽいと投げ落とす。
ころりと転がったそれを見つめ、燐はす、と深く森の空気を吸い込んだ。
『われねがう、このもりにありしわれがらたましいとひとしきものにねがう』
それは、小さな小石だ。ただ違うのは、真ん中に穴を穿たれているという事か。
それに向かい、静かに、まるで歌うようにその言葉が舞い降りる。
『よわきいしのよわきがゆえに、つよきたましいのたけきにながれ、そのゆくすえにわれらがみちをしめさんことを』
言葉を紡ぎ終えると同時に、その石はころころと転がりだした。雪の上だというのにその上に跡もつけず、重力を感じる事も雪球になる事も無いと言わんばかりに前へ前へとゆっくりゆっくり転がっていく。
「やっぱり兄さんはこっち方面の方に特化してるんだよねぇ…」
「るせぇ。禊とか祝詞は反作用喰らうだけなんだから仕方ねぇだろ」
そう、それはこの物質界に住う今は僅か残った神と呼ばれしものの言霊。
どちらかと言えば悪魔に近い彼等の持つ力を借りるそれは、祓魔師が主立って遣う祝詞などと違い、何かしらの穢れが付きまとう。故に祓魔師でも使うものは稀で、それを使いこなす事は魔に近づくという事でもあるから余りいい顔をされないのも事実。
だが、兄の場合はその身が持つ特性故に、彼等に愛されその力を使役する事を赦されていた。しかも契約無しの施行であるのだから、その度合いがいかほどのものかが伺える。
魔でありながら、こちら側で人として生きる、はざまのものである燐のどこを彼等が気に入ったのかは解りはしない。でも、燐は彼等の教えを素直に受け、その術を手に入れた。
普段は余り使わないようにしているものではあったが、こういった二人きりや見知った面子との任務限定で、燐は必要と判断した時だけその技を使う。そしてその術は、何処か優しい色をしているのも事実、だった。
「まあ、この森は俺達を嫌ってはいないってことだけは解ったし」
そして、術は使う場所に存在する彼等の力を借りて施行される。
石が転がりだしたという事は、燐も、側にいる雪男も害無き者と認められたという事だ。
「さて、あっちに何かあるみたいだな」
「鬼が出るか、蛇が出るか…むしろ僕等が鬼扱いかもしれないけど」
「まあ、そんときはそんときで」
転がる石の指し示す道へ、足先を向ける。
目の前は、未だ舞い飛ぶ白い雪の欠片に閉ざされていた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++
雪が積もるもんだからちょっと思いついて書き殴り。
聖句とか祝詞だと悪魔やっつけちゃうだろうから、何か無いかと思って考えて結局ここにおちついた……もりのおおさまはつよいんだぞー。
てゆーか つ づ か な い ぞ ?(脱兎)

