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2011/1月インテ新刊
にょたの上にパンストパロとかどれだけカオスになろうというのか……



++++++++++++++++++++++++++



「うぉおらぁぁぁあぁ!起きろ!おぉきぃろおぉぉぉぉ!」
 朝からけたたましいと言うべき音階の声がこだました。
 かんかんと鳴り響くのは握りしめたフライパンで、張り上げる声の出所は薔薇色の唇。そして纏うはふりふりフリルの真っ白エプロン。そんな古典的ともいえる新妻風情を醸し出しているというのに。
「ぐぉらぁぁぁぁぁぁぁ!朝だってんだろぉぉぉぉぉぉぉ!飯抜きにすんぞおまえらぁぁぁぁぁ!」
 その言葉は粗暴極まり無い。
 その肩にのっかっている子猫はそれをいつものように受けてにゃあああと声を上げ、足下にいるモップ犬は器用に前足で耳を塞ぎ煩いと言わんばかりに目を閉じる。
 毎朝毎朝同じ光景…と言う訳でもないのだが、号令のように響くこれはある意味一日のはじまりとも言えて。いらつくというよりも何処か楽しい気分でもあるのだ。
「うおおおおい、おはよーさん」
「おせぇ!」
 新聞をバサリと言わせながら大あくびで現れたのはこの教会の────そう、ここはこの街の外れに在る教会で、場所はその居住区である────神父でもあり、カンカンとフライパンを鳴らしていた少女の養父でもある男、藤本獅郎その人だ。
「うっせーな、昼じゃねーからいいだろ。って燐、雪緒はどーした」
「……しらね」
 ぺちぺちと頭に当たり続ける新聞を奪い取ると、燐と呼ばれた少女はぷいとそっぽを向いてキッチンへ向かう。
「うお?何お前らまた喧嘩?」
「ウッせぇよジジィ!とっとと座れよ準備すっから!」
「あらやだやぁねぇ若いわねぇ」
「てめぇ!一品減らすぞ!」
「へーへー、おー、今朝もうまそうだなー」
「ったく……」
 食卓には、湯気を上げる出来たばかりの朝食。
 そぼろと葱入りの卵焼きに鱚の一夜干し、大皿に盛られた白菜と人参の胡麻酢和えにたっぷり根菜のお味噌汁、ご飯も炊きたてつやつやほくほくだ。
「ほんとお前、いい嫁さんになれそうだよな」
 整えられた食卓を眺め味噌汁をひと啜りして獅郎は溜め息を吐く。きちんと出汁を引いて作られた食事は本職と引けを取らないレベルなのだ。加えて家事もそれなりに出来るのだから、この口の悪さと喧嘩っ早ささえなければと思いはするのだが。
「飯だけ作れれば嫁になれるって訳じゃねーだろ?」
 本人にはそのつもりは全く無い上に、そこに悪意も悪気もない。全て素だ。
 育て方を間違えたかとも思うのだけれど、素直に育ってくれたのは事実なのでその辺には目を瞑る。悪い部分はあろうとも、心は優しく性根は真直ぐ、嘘もろくにつけない程なのだ。
「ま、そうだがなぁ……お、この鱚うめぇな」
「それまだあるから何だったら後で酒のつまみにしていいぞ」
 にっこり笑う笑顔が、何よりもそれを雄弁に物語るではないか。
 この子はこれでいいのだ、そう思って卵焼きを口にする。少し甘めの味付けは全体のバランスを見ての事なのだろう。何処かほっとする味に安堵の息をはきかけたその瞬間。
 ぎぃ、と鈍い音を立ててドアが、開いた。
 のそり、という擬音でも聞こえてきそうな状況で見せた姿に、獅郎はうんざりという顔をする。寝起きが悪いのは解っているが、これを世間様には見せられないと思うのは親心なのだろうか。
 形状記憶でもされているのかというような髪の毛はさらさらとしているし、いくら眠そうにしているとはいえその顔は整っているからむしろ気怠さも相まって逆に色気すらある。加えて結構なスタイルの良さであるから見目はとても麗しい。
 しかし、その頭の中は見た目通りには行かないという訳で。
 どこか眠た気な瞳がぐるりと室内を見渡す。そして、その視線がキッチンへ向かい、ぴたりと動きを止めた。





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拍手[18回]

PR
冬コミ新刊サンプルです。
また何処を抜いてもネタバレなので大丈夫な部分だけ……


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 鍵はあるからただ歩くよりは早く戻る事は出来るのだが、それでも心ははやる。
 あの状態の兄を一人で置いていてよかったのだろうかと、しえみを送り返した後もずっと考えていたのだ。

 ほんとうの
 ばけもの だな

 そういって笑っていたけれど、それは決して本心ではないだろう。
 苦しかったり、哀しかったり、そういうとき兄は無理に笑う事が多かった。
 何時しかそれが当たり前になり、兄は本心を隠してしまうようになって。
 それが大人達や街の少年達に喧嘩を仕掛けられていた原因の一つだったのだとも、聞いた事がある。
 仏頂面か、ヘラリとした笑顔か、怒りを帯びた顔か。
 どれにしても、相手を挑発するには充分だモノだろう。
 ふと、兄がそうやって本心を隠していたのと同じように、自分もこの張り付かせたような善人の表情に本心を押し込めていたのだな、と考えた。
 これまで……義父が亡くなるまでと亡くなってからの自分の変貌を兄がどう考えたのだろうか。
 あの、寒い月の夜に自分の精神の歪みは間違いなく兄に伝わっている。
 それでも、ちゃんと自分を見て、その上で全て受け入れてくれた兄は、果たして自分にも本心を告げてくれているのだろうか、と。
 そこまで考えて、寒気が背を走った。
 元々嘘もつけない程に真直ぐで馬鹿正直なたちだ。だけど、何処か他人を寄せ付けないように壁を作っている素振りもあった。
 修道院の皆にも恐れられていた事を、もしかしたらあの感の良さで感じ取っていたかもしれない。それでなくても、世間は兄を異質と突き放していたのだから。
 剣を抜けば、迸る青い炎。
 鋭い牙に、尖る耳、そして何より異質を訴える、その尾の存在。
 元々あった過剰な治癒力も、完全に人の範疇を越えて。
 そんな姿になっても、その心は優しい兄のままだと言うのに。
 あの、嘘偽りなく自分を見つめ、大丈夫と笑ってくれていた兄の心の内に何か隠されているものがあるのではないか。
 そんな事をぐるぐると考えているうちに、気付けば寮の前まで来ていた。
 覚束ぬ指先で鍵束を探り、扉の鍵を取り出す。
 鈍色のそれをつまみ上げた指が、何処か震えているように見えて。
 雪男は、大きく、息を吐いた。




+++++++++++++++++++++++++


拍手[4回]



5つのお題ったー(http://shindanmaker.com/35731)より
『止まらない歩み、追えない足。・ちょっとそれ貸して・雫・殺シタイホド、愛シテル・最後の第一歩』
こちらをお借りして書いてみたんで、す、が………………


何だか、しにねたっぽい話になっちゃいまして……_| ̄|○


大丈夫!受け止める!と言う心の広い方はどうぞお読み下さいませ……


拍手[26回]

ナニがあったどうしたという勢いでりんゆきにょた熱大暴走ですんません。
燐←姫な感じで。


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「ほんとに、さらっさらだよなぁ……」
 するり、と指先が髪をすり抜ける。
 じりじりと外を焼いていた日差しが少しずつ緩み始め、辺りは僅かずつその色を柔らかくしていく。
 遠くから、かすかに人いきれのざわめきと神楽が聞こえている気がした。
「頭が重くならなくて…そんで邪魔にならなくて崩れない、だったな」
「うん」
「まあ、任せとけ。一番可愛くしてやる」
 傍らに置かれているのは深い瑠璃色に白く百合の意匠が抜かれた仕立ての良い浴衣。そして何本かの細いリボンと、細やかな刺繍の艶やかな帯。
 襦袢を纏って椅子に座ったまま、雪緒は髪を梳く兄の手に全てを委ねていた。

 何に置いてもがさつな兄ではあったが、こういった細かなことは小さな頃から得意で。特に雪緒の髪の毛は途中から全て兄の手で整えられていたのだ。
 ただそれは中学に上がるまで、ではあったが。
 中学位から修道院に居着かずふらふらとしていた兄は時折しか髪を結い上げてくれなくなっていた。しかし、何故かこういったことに関して雪緒はどうしても不器用で……実際、女子が好むようなビーズ遊びやリリアンなどは全くもって苦手。料理は壊滅的な腕前で、編み物に至ってはマフラーがどう間違ったかコースターに成り果てる始末だ……髪を切ろうと考えていた時、偶然現れた兄は前触れも無くぼそりと呟いたのだ。

 きれいだから そのままにしとけよ

 それ以降、雪緒の髪は背を半分程覆うあたりで留められている。
 そんな事を覚えているのかどうかは知らないが、こうしてまた二人で過ごすようになってから、雪緒の髪を結い上げるのは燐の仕事になっていた。
 普段の生活時は雪緒でも出来るようなバレッタを使って纏めたりする程度のことだから手を煩わせることは無いのだが、何処かに出掛けるとか、ちょっとおしゃれをしたいとか、そんな事を思うとき、知ってか知らずか兄は自然と声をかけてくれて。
 今日も、それは当たり前のように行われている。
「ねぇ、なにするつもり?」
「んー。編み込みかな。細かくやってリボンも入れてうまく纏めてやるよ。お団子とかだとなんか浴衣にあわねー気がする」
 そう言いつつも、手に髪束を少しずつ取っては編み上げて行くそれには迷いも何も無く。右側から持ってきた髪をカチューシャでも作るかのように編み込みつつ左に持っていく様は中々堂に入っている。
「ねぇ、兄さんは浴衣着ないの?」
「あ?なんで?」
 鏡に映る、指の動き。
 もう、こどもの頃とは違う骨張ったそれが、髪を滑る。
「一緒に行くのに僕だけ浴衣ってなんかいやなんだけど」
 何処かくすぐったいその感覚は、何時しかその意味を違えて。
 掠めるように触れる指先に、あらぬ思いでこころは揺れる。
「……どうしてもか?」
「できれば」
 うーん、と思案する声と共にヒュ、と空気が薙いだ。
「これ、隠すの大変なんだけどよ」
 そう、兄には悪魔としての身体特徴故に尻尾がある。普段は腰履きのボトムからはみ出させたそれを腹部に巻き付けてシャツで隠すなどしている様だが、浴衣はそれなりに難しいようで。多少思案顔になっているのを横目で見てから、仰向くようにして兄を見上げた。
「なんとかしてよ」
 ね?と首を傾げてみれば、困ったように笑う燐が、見える。
「わーったよ」
 ひょいと元の位置に頭が戻され、ピンに括りつけた細いリボンを髪に差し込みながらそう言って我が侭を赦すその姿に、思わず意味を取り違えそうになって、しまう。
 違うのだ、と。
 兄にとって、自分は妹でしかないのだ、と。
 何度も何度も、なんど、も。
 跳ねるここをろ押さえ付ける呪文を唱えているというのに。
 そんな事を知らぬ兄は、いつもの様に笑ってくれる。
 その笑顔一つ、言葉一つで。
 自分の胸は、張り裂けそうだ。
「浴衣青いから、飾りのリボンは白のレースにする。眼鏡、ラベンダーのフレームのあっただろ、それに変えろよ?」
「……どうして?」
「その方が絶対に、可愛い」
 きっぱりと、潔い程に断言されたその言葉に思わずかぁ、と音でも立てるかのように頬が染まるのが解った。
 しずまれ、しずまれ。
 そう願うのに収まるどころかますますそれは熱を上げる。
「どうした?なんか熱いぞ?」
「な、なんでもないよ!」
 触れているのだ、それに気付かれない筈は無くて。
 心配そうな声と共に、兄の指がそっと首筋に触れた。
「────っ!」
 途端、雪緒の身体が跳ね上がる。
「お、おい?どうした!ってか熱いぞやっぱり熱あるんじゃねーのか?」
 こっちの気持ちなどお構い無しに、兄はそのまま掌を額に重ねようとしたものだから。
「……に、いさん、の」
 つい、うっかりだった。
「バカぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 伸ばした腕は、兄の胸を押しやって。
「ぬおっ、お、おおおおおおおおお?」
 思い切り良くその身体を向こうの壁へと転がしていたのだ。
 ごん、と痛そうな音が部屋に木霊して。
「あで、て……」
 ごろん、と。
 頭を抱えた燐が床に転がって、いる。
 やってしまった、と思いつつも余りのことにフリーズしてしまってそこから動けない雪緒の眼に、むくりと起き上がりつつ自分に視線を向ける兄が映る。
 ぶち切れるか怒鳴るかはするだろうな、そう覚悟したというのに。
「あー……驚かせちまった、か?」
 その声は、何処か心配げなもので。
「悪ぃ、いきなりやるなってこないだいってたのに忘れてた」
 そっと、そっと。
 触るぞ、という低めの声と一緒に額に乗せられた掌は、やっぱり優しかった。
「熱は、ねぇな。あとで汗だけ押さえとけ」
「う、ん……ごめん」
 本当に勝手な、自分の抱えている気持ち。
 兄にとってはきっと負担にしかならないであろうこの想い。
 ただのきょうだいの、そのままの気持ちであれば良かったのに。
 胸が、たったこれだけのことでも高鳴ってしまう。
「なーに謝ってんだよ。ほら、あと飾り付けるだけだから浴衣着ちまえ」
 髪は、いつのまにか仕上がっていたようだった。
 複雑に、細さの違う編み込みが重なり合い、所々で花のように形取られて。
 その中に編み込まれた濃紺の細いリボンに縫い付けられたラインストーンが時折光を跳ね返す。

 ああ、やっぱり。
 僕を一番綺麗に仕上げてくれる。

 そう思うのは、きっともうこの人を兄という存在としては見られなくなってしまっているから。
 だれよりも、なによりも。
 愛しく、大切で。そして────愛して、いるから。
 決して知られてはいけない、この想い。
 それを隠して、包み込んで。
 まだ、妹の顔で笑える筈だから。
「……兄さん、着せて」
「はぁ?」
 浴衣を持ち上げ手渡そうとしていた燐の眼を、真直ぐに見つめて雪緒は笑った。
「着せてよ」
 きっと、その手は自分を一番綺麗に彩る。
 きっと、その手は自分を誰よりも理解している。
 だから、その手に全てを委ねるのだ。
「……いいのか?」
 伺うようなその理由は、さっきの自分の態度だろう。自分のこの、兄に取っては意味も無い感情の為に取ってしまった態度。でも、それがただの気まぐれだと思ってもらう為にも、雪緒は笑う。
「うん」
 頷き、にっこりと微笑んで。
 今は、まだ笑い返す事が出来る。
 何時か、その傍らに自分ではない誰かが立つことになるであろう、見えざるその先に辿り着くその日まで、は。
 妹という、己の本心が望まぬ位置で、自分は花のように笑ってみせる。
 仕方無いな、と優しく笑って藍の色が肩にふわりと掛けられた。
 遠くから聞こえる神楽は、何故だかセルロイドの洋燈のようにどこかぼんやりと耳に届いて。
 いっそこのまま、いられたらいいのに、などと不埒な考えさえ呼びそうになる。
 何時か、この想いが知れる時が来るのであればいっそそのまま絶えてしまえたら等と、不穏な想いすら引き起こす、けれど。
 ふいに触れる、暖かな指先と。
 しゃらりと響く衣擦れの音が、意識を現実に引き戻す。
「ねぇ」
「あ?」
「手、繋いでくれる?」
 やさしいやさしい、たったひとりの、かたわれ。
 今はまだ、自分の手だけを握っていて欲しいから。
 突然の言葉に燐は驚いてはいた。でも、すぐに頷いてくれて。
 お前はいっつも唐突だよな。
 そう笑いながら真白な花飾りをそおっと髪に差し込んでくれた。





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拍手[18回]

にょたというか奥村姉妹と出雲(男)とシュラさん。
性転換ネタです、ほんますんませ……


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「え?まじ?うん、さんきゅ!」
 傍らから聞こえる声が僅か跳ね上がる。
 確かな喜びの温度だと、それがわかるのは自分が余りに近すぎるせいか。いや、距離的にではない。物質的なものでもない。双子、という関係である以上それは避けられないことであるわけだし、何よりもずっと一緒にいるのだ、それくらいのことはわかりきってしまう。
 そして、電話の相手が誰なのか、ということで、さえ。
「今から?でもさ、疲れてんだろ…?いいのか?」
 ああ、そんな顔しないで。
 わかっていても心が乱れてしまう。
「悪ぃな、ほんと……うん、じゃあまってる」
 そういって携帯を切った彼の人は、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「……おっまえ、何そんな機嫌悪い顔してんの?」
「そんなことないよ」
 視線を逸らしたら負けだとわかっていても、真っ正面に姉を見られない。今の自分の表情なんてわかりきっている。酷く歪んだ、それこそ嫉妬の固まりを塗り付けたような、仏頂面。
「だからさぁ、なんども言ってんだろ?そういうのじゃねぇって。ただのとーもーだーちー、OK?」
 それにしては仲良すぎるじゃないか。
「今のだって、出張先で桃が手に入ったから持ってくるだけだってさ。こないだケーキ差し入れたののお礼だって」
 気がなきゃそんなに頻繁にモノ持ってこないだろ。
「ついでに言えば、妹の好物だから、買えたら買ってきてくれって頼んだのは俺」
 ……は?
「ちょ、どういう、ことだよ」
 思わぬ言葉に、目を剥いて勢いよく姉を見れば、してやったりという顔をした姉が趣味の悪い笑みを浮かべていた。
「桃、好きだろ?」
 してやられた。
 結局、一人でぐるぐると螺旋に埋もれてあがくのはいつも僕で。
 姉さんはただただ、純粋にまっすぐなまま。
「機嫌、直せよ、な?」
 夕飯、好きなモノ作ってやるから。
 そんなこと言ってにっこり笑ってくれた日には、白旗揚げるより方法がないじゃないか。
「姉さん、ほんとマジ勘弁……」
 思わず頭を抱えてしまった僕の頭にどこか怒りを帯びた声が降り注ぐ。
「なんだよそれ!俺はお前に食わせたいなって思ったからあいつに下げたくない頭まで下げて頼んだのに!」
「違う違う、そうじゃなくて」
 無理固められていた筈のかんばせが、ばらりと解けて。
 自然に笑みが、こぼれる。
「予想外すぎるってだけ。ほんと、そんなじゃ何度言っても足りない」
「わけわかんねぇ…」
 瞬間的に上がった感情の温度を疑問で塗り変えて首を傾げる姉さんにもう一回笑い返すとその手を取り上げ口付けた。
「わかんなくていいよ。ただ、愛してるだけだから」







 *** *** *** *** ***






「にゃはー。全くご苦労なことだなー」
 にやにやと隣で笑う上官に一瞥をくれて携帯を閉じる。
「別に、関係ないでしょう」
「いやいやー、たいへんだにゃーってねー」
 目の前にいつ上官は、こっちの感情など知ってはいないのだ。性別を越えた友情は存在するというのに、周りは勝手に間柄を取り繕うとする。
「あいつは、ただの友達です。それにあいつが一番好きな相手もちゃんと知ってますから」
 きっぱりと、そう告げてしまえば上官は一瞬目を丸くはするがニヤリと先の電話の相手に似た笑みを浮かべて頷いた。
「わかってんならいいさ。あれに入り込もうってのがそもそも無理なんだから」
「それは、重々承知です」
 解っているのだ。そんな事は重ねて言われなくとも、嫌という程に叩き付けられた。
 でも、それでも、何処か未だに焦がれる部分は残る。
 それを押し殺してでも、自分は彼女を見つめて行こう、と。
 彼女の望む幸せ、それが形を崩すことの無いように願って止まないからこそ、この位置に今自分は存在する。
「だから、今更仰らなくても結構です、霧隠教官」
「しかし、それでもそうやって世話焼くのはやっぱり好きなんじゃにゃーいのーぉ?」
「……ですから!」
 足を止めて隣を仰いだ瞬間。
 ぐい、とその顔が触れ合う程に近づいた。
「好きでもなけりゃ、あんなのにここまで付き合い続けられないと思うけどな。まあ、あのビビリ姫なんとかしなきゃあ一生それは片恋だがなぁ?」
「ベ、別に!」
 言葉に、血が一気に沸き立つのが解る。
 瞬時に頬が熱くなって目の前がグラリと揺れた気が、して。
「そんなんじゃないっていってるだろ!これは買って来いって言われただけでわざわざ買ってきた訳じゃないしそれに代金だってもらって」
 勢い良く叫び足しいた唇を、しなやかな指が塞き止めた。
「はーいはーいわかってるよーん。じゃあいこうかー」
「な、なんで?」
 外された指の感触がまだ唇にある。
 何処かジンとしたその痺れを追い出すように手の甲を当てて前を睨めば、ヘラリとした笑みが、返って。
「アタシもあいつらの顔みたいし。ほらさっさと行くぞ。帰りに酒奢ってやるから」
「……あんたが飲みたいだけでしょう、それ……」
「そうとも言うかにゃー」
 くしゃりと、笑みを浮かべた顔は何処か悪戯な子猫の様。血縁も無いというのに彼女によく似ていて、一瞬だけ息と意識を奪われる。
「まぁ、愚痴くらいは聞いてやるさ、不肖の弟子共のな」
 動揺を、伺い取られたのか。
 出雲の浮かべた表情を面白そうに見つめて眇められた瞳。
 それをそのままに上官は前に向き直り振り向こうとしない。
「ほれ、行くぞ神木!」
「……はい、教官」
 ああ、また余計なものを見られたと思いつつ、出雲は前を進む上官の背を追いかけて走り出した。







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(10.8.24 コミックマーケット)

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