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ええと、会話上に出た言葉に燃えていきなり降って来たネタ。
あまり旅の途中の時空列を書かないので、習作も兼ねて。


  



=== ==== ===== ==== === == = == ===



 目が覚めて、真っ先に思い浮かぶのは、誰ですか?





 朝、というものに対してオレが思い起こすのは光、だ。
 いつもそうだ。目覚める時間近くになると弟は部屋のカーテンを勝手に引く。どんなに眠っていたかったとしても起きなければならない時間を的確に計り、オレよりも正確にそれを判断して実行するのが、弟が朝一番の役目としている事のようだった。
 まぁ、寝てもいい時や体調の悪い時はそれを推し量り寝かせてくれているのだからいいのだが。

 ほら、あさだよ。
 おきなよ、きょうはでかけるんだろ?
 もう、またそうやって、あとでおこるのにいさんじゃないか。
 ね、おきて?
 こんなにいいてんきなんだよ…?

 そうやってなだめすかして起き上がらされて、オレの朝は始まる事が多い。
 でも、その前のオレの意識は、違うところにある。

 意識が、眠りという場所から浮上し出す瞬間。
 オレは、いつも無意識にそれを考えている。
 覚醒する、その一瞬前。
 目覚めてもいないのに、その姿を追い。
 薄く開いた視界に映る、傍らのその存在を確認するのだ。

 ああ、いてくれた、と。

 いつでも傍らにある、その存在……弟、を。
 オレは、眠りから浮き上がる瞬間いつも、思うのだ。

 毎夜、一人眠りという淵に落ちるオレの側で。
 眠る事を奪われた弟は、ただただ一人で夜を超える。
 生身の身体である事をこれだけ恨んだ事は無い。
 奪い去ったのはオレだというのに、オレだけが眠りに落ちる。
 弟は何でも無いように優しく笑うけれど、お前一人を闇に置く事をオレが気に止まぬようにと思っての事だろう?

 恨め、と言ってもそれを否定したのはあいつ。
 憎め、と言ってもそれを拒否したのはあいつ。

 それでも、僕は貴方の側にいる
 貴方を、崇めも恨みもしない
 だって僕達は、同じ道を進んで
 同じ過ちを経て
 今ここにいる
 これは
 誰のものでもない、僕の意志だ────

 強く、はっきりとした声で発せられた言葉を。
 オレは今でも、胸の奥に滲ませているの、だ。
 ここにいる、と。
 そう言った、鋼鉄に捕われた優しくも屈強な魂を持った弟。
 その、闇を貫く光のような強い意志を。



 夜を超えて朝が、来る。
 時が廻り、日々が巡る。
 同じような、同じではない朝が何度も巡って来るけれど。


 オレの目醒めは、いつもお前が運んで来る、から。



=== ==== ===== ==== === == = == ===



拍手[0回]

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いい加減にせいよ!と言われそうな気もせんでもない武侠パラレル。
でも大好きなんだよなこういうの……
前回とは繋がってません。今回は弟パート。




==============================




「貴方の手は既に読み切っている事を、お忘れにならないように。そして、それ以上に」
 その瞳がゆるりと伏せられ、唇がふいに笑みを浮かべた。
「金の華は、貴方が思うぼどしおらしいものではありませんよ?どちらかと言えば…そう、そこに咲き誇る薔薇のようなあでやかさのなかに隠された刺のように」
 そして、持ち上がった瞼の下に閃いた金が易々と視線を捕らえ、その魂を掴み上げた。
「手折る等と馬鹿な事は考えない方がいい。まあ、それ以前に」
 そう、気付くよりも先にその衝撃は襲っていたのだ。
 距離は、声がようやっと聞こえるかどうかという距離であった筈だ。なのに、己の胸には確かに鋼鉄の鎖が蔓茨のように伸び、それを芯に赤い花が咲き誇る。
 そして、焼けるようなこの、内部から起こる熱は。
「それを赦すほど、僕は出来た人間でもない」
 くい、と指が曲げられる。
 伸びた鎖から、カチ、と鳴いた小さな音。
 それを合図に鎖は引き戻り、体内には異質な何かが広がった。
「あの人に触れよう等と考えたことは、何より」
 凍り付くような眼差しのまま、唇に浮かぶのは余りに優美な笑み。
 いまさらに男は気づく。

 金の華には、その華守がいるのだ、と。
 大輪の花を咲かせるための、護り手が必ずそばに寄り添うのだ、と。
 そして、華守が華に近づく手が華にとって不必要と判断したその、とき、は。

「万死に、値する」

 言葉が耳に届いて、男の意識は赤く塗り替えられた。
 痛み、いやこれは快楽か。
 四肢を、思考を覆い尽くす余りに強烈なそれは。

 人の身には余り得るものなのだから。



「後悔などさせない。その思考ごと闇に滅してしまうがいい」
 手に残った鎖を巻き取りながら金色を纏う青年はそれに一瞥もくれず、踵を返した。


==============================

続きます、ぶつぶつとぶった切れで続きます!

拍手[1回]

今日パフェ食べてて、向かいが件の歌う石盤アイス屋さんだったんですが急にその店の歌の話になって兄さんきっと自棄になって歌うよねーとか言ってたらかけ言われたので書いてみたら全く方向性が別の話に………

軍部祭か何かで無理矢理借り出されて出店で客寄せの歌歌う羽目になったSEEの兄さんの図。

===============================================



「おうたは?」
 首を傾げたこども達が、腰辺りで纏わり付く。
「ねぇ、おうたは?」
「さっきのおにいちゃんはうたってくれたよ?」
「おかしちょうだいっていうと、おうたといっしょにおかしくれたよ?」
 何と言うことだ。
 つーか何やってやがったアルフォンス。
 よって来たガキ共に菓子配ってにっこり笑えばいいとか言ってなかったかテメェ!
「おうた、ないのぅ?」
 何処となしかしょんぼりした声が耳に届いて、オレは罰が悪い状態に陥る。
 正直言ってこういうのは苦手だ。
 だが、視線の集中砲火を浴びている現状、怒鳴り散らすのは良くはない…いやまずいな、それは。
 しかし、ここにいるのは軍の関係者やその家族が殆どとは言え余りそう言うのを見られたくはない奴らだって混じっている。
 しかしこのままだとオレは兎も角弟にまで悪い風潮が立つかもしれない。

 ええい、ままよ。
 恥ずかしいのは一瞬だ!

 オレは、膝を追ってこども達と向き合った。
「あのな?兄ちゃんあんまり歌上手くはないんだ。それでも…いいか?」
 こども達の目が、言葉に輝きを増す。
 何度も縦に振られた肯定の合図に、オレは一つ息を吐きつつ苦笑いをし。
 長く息を吐き出す。

『このひとさじは なんのあじ?
 ひとつすくって さしあげよう
 そしたらきっと そのあじに
 だれもがきっと おどりだす』

 歌い出せば、それほど恥ずかしさは感じなかった。

『このひとさじは だれのため?
 きっとまだみぬ とおいひと
 いつかであえる そのひまで
 ひとさじそっと のこしましょう』

 軽快なテンポの歌は、旅の途中の何処かで聴いた曲。
 手回しオルゴールと共に歌っていたのは、幾分か草臥れた男だったか。

『このひとさじは あなただけ
 そっとのこして おきました
 あなたのえがお みつけたら
 そのひとさじを ささげましょう』

 街の公園、黄昏時。
 礼装を纏ったモノクルの男。
 くるくる回るオルゴール。
 どこかかなしい、やさしいおと。

『さじはいつしか さびおちて
 くみあげたもの とおいゆめ
 それでもひとは しあわせと
 うたいながら わらうのです』

 あえて、止めなかった。
 一息で歌い切るしか無かった。
 最後のフレーズを終えて、息を一つはいたと同時に溢れる小さな掌が起こす歓声。
 それは辺りを巻き込んで、オレはいつしかその中心にいた。
 何だかバツの悪い状況になったなぁと思いながら、オレは頭をかきつつ立ち上がってお辞儀をしてみせる。
 あの遠い記憶の、黄昏時に見た男のように。





「で、なんでこんな状況なのかな?」
 戻って来たアルフォンスは、解せぬと言った顔をしてオレを睨みつける。
「しようがねぇだろ、歌え歌えとオレ様大人気なんだからよ。あ、菓子は売り切ったぜ?」
「……だからって歌ってチップ貰う軍人が何処にいるんだ!」
 そう。
 あの後何故かオレはその周りにいた大人共に囲まれやれ何処そこのあの曲をとか言い出されて。
 代金代わりに最初は菓子を買ってもらっていたのだが気が付けば菓子は売り切れてしまい、その後もひっきりなしになってしまったそれを捌く為に足下に籠を置いて路上詩人よろしく歌っていた訳なのだから。
「厳密にはオレは医者だ!」
「でも軍属だろ!」
「うるせぇ!どうせこれはチャリティ行きだ!オレの懐にゃ入らねぇんだからいいだろが!」
 がぁ、とお互い噛み付くように叫び合って暫しの後、息を吐き出したのはアルフォンスの方だった。
「あーもう、ああ言えばこう言うこう言えばああ言う!一体誰に似たんだか!」
「それと同じ血をお前も間違いなく引いているんだぜ?」
 にやりと笑ってやればいやそうに眉をひそめて小さく勘弁しろという声。
 おいおい、そんなにいやか。
「……にいちゃんきらわれたかなーさみしいなぁー」
「嫌ってないよ、呆れてるだけ」
「どっちもどっちだろ」
 肩を竦めて鼻で笑うと弟はその笑みを柔らかいものに変えた。
「で」
「ん?」
「何歌ったのさ?」
「ああ、あの、な……?」
 オレは、記憶を引っ張り出しながら歌った曲を羅列して行く。
 それは、ある意味オレ達の旅の系譜にも似て。
 それを聞いた弟は酷く優しい笑みを浮かべてうん、と頷いてオレの手を取った。
「沢山、聞いたもんね。色んな歌」
 未だ機械鎧のままの右手と生身の左手を両の手に包み込むとコツ、と額を当てる。
「その、オルゴールの曲…歌詞無かった筈だよね?」
「そう、だっけ?」
 おかしいな。
 オレの記憶には歌詞がはっきりあるんだが。
「今度、僕にも聞かせて」
「……いやだ」
「なんでだよ」
 コイツが覚えていなくてオレが覚えている歌。
 もしかしたらそれは。
「ぜってーやだ。何があっても歌ってやらねぇ」
「なんだよそれ!どういう屁理屈!」
「うるせぇ!兄に口答えすんな!」
 もしかしたら、いや、もしかしなくても。
 あれは、オレの口から零れた歌だったのかもしれない。


 それでも人はしあわせと
 歌いながら笑うのです


 ああ、そうだな。
 そうだよな。
 オレは、まだリフレインしたままのその歌に、一人そっと頷いて。
 アルフォンスに向かって、笑う。



 こんなしあわせが、歌うように流れて行けばいい。
 何時かオレが、そうお前に向けて歌えるように。



拍手[1回]

ま、間に合うかどうか気が気でなかったけど何とか滑り込み!
でも結局SEEになっちゃった!
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 誰にだって、テリトリーというものがある。
 それは、あの兄弟にもあったのだが、それはかなりというか、想像しがたい場所であった。
 兄の方は事あるごとに台所に籠り、弟はと言えばリネン室に籠る。
 掃除が得意か炊事が得意かという事で割り振られる、と言えばそれまでなのだが、この場合ストレス発散の行動がなんだったかによって決まったという方が正しいだろう。
 日頃たまったストレスを兄は調理で発散し、弟はたまる洗濯物を如何に白くするかで発散していたのだ。


 その、兄にとっての憩いの場所が、朝から封印され占拠されていた。


 朝目が覚めた段階でああ、何か盛られたのかという事は理解出来たのだが、何故そんな事になったのかエドワードはイマイチ理解出来なかった。
 いつもなら寝る前に差し出して来る事は余り無いであろうブランデー入りのココア。少しいつもと味が違う気が下から薬はそこに盛られていた。
「……多分……睡眠薬、か……」
 ふぅ、と息をついて僅かに残る眠さを吐き出そうとしてみるが、薬由来ではそれもなかなか抜けて行かない。これでは熱いシャワーを浴びようがダメに決まっている。
 ならば取り敢えず身体を温めて汗をかいてしまえばいいだろうと、熱い茶でも湧かすつもりで階下に降りキッチンに足を伸ばしたのだが。
「なんじゃこりゃ」
 キッチンのドアノブが、無い。
 というより、キッチンにドアがある訳が無いのだ。ダイニングに直結した造りだから、簡単な間仕切りはあっても繋がる部分にドアは無い。元より運ぶのに面倒だからと取っ払ったのは誰でもない自分だ。
 その出入り口が、何故か壁になって立ちふさがっている。
「……………ほぉう」
 こんな芸当が出来る人間を、エドワードは自分以外で二人知っているがそのうち一人はそんな事をするとは思えない。もう相手もいい大人だ、己の命をかけてまで人の家を改造には来ないだろう。
 と、いうことは。
「…………あんの、木瓜」
 低めた声が、一つ。
 直後、けたたましい音を立ててその壁が蹴り立てられた。
「アァールフォォーンス!この家の中だからオレとお前以外誰がいるとかまあそんな事は置いておいて、ここにいるのは充分すぎる程に判ってる!蹴破られたくなければ今すぐこれを元に戻せ!」
 返事は、無い。
「アル、もう一度だけ言うぞ!」
 言うより足が上がる速度の方が早かったかもしれない。だが、しかし。
「いーやーだー!」
 もう一発お見舞いしようと上げた足は、帰って来た声に行き場を無くし空を切った。
「お茶なら保温ポットに入れてリビングに置いておいたし、ご飯はケータリングでなんとかなるだろ!」
「お、おい?」
「今日一日でいいんだ、ここ貸して!ちゃんと綺麗にして返すから!」
「あ、あの、アルフォンスさん?」
「お願いだから、僕の気のすむまで放っておいて!」
 捲し立てるように言い放たれた言葉の後、訪れたのは静寂。
 それっきり叩けど喚けど返って来なくなった声にエドワードはまたしても溜め息を一つ、ついた。
 リビングにあったのは大きな保温用ポットが二つにクッキーの缶とそのまま食べられる林檎やオレンジなんかの果物が入った籠。そしてケータリングのカタログ。
「ここまでやるならせめてパンとかハムとかチーズも置いと…ああ、そういや昨夜ので最後だったか」
 今朝は寝坊する気満々だったから、外で遅めのブランチにすればいい。買物もその後済ませてとか考えていた事を思い出した。
「しかたねぇ…か」
 外を見れば、青く晴れ渡る空にはためく洗濯物。
 自分の割当を終えて台所に籠る為に薬を盛ったというのか弟よ。
「しっかし、なんかこうおちつかねーのな」
 何だかんだと言いつつも、弟のする事を嫌いな訳ではないのだ。
 ただ、無駄な矜持や元々の性根が邪魔をする。
「兄ちゃん一人じゃつまんねーよ、アルフォンス」
 こうなったら出来る事はただ一つ。
 ばふ、と音を立ててエドワードはソファに倒れ込む。
 背もたれにかけっぱなしにしてあった毛布を引っ張って身体をくるむと、まだ残っていた眠気を引きずり出すように瞼を閉じたのだった。




「……ぃさ……、にいさん、兄さんってば!」
 肩を揺さぶられ、耳朶に緩やかに飛び込んできた声に、意識は少しずつ浮かび上がる。
「………ん…ぁ………あ、るぅ?」
「あるぅ?じゃないよ!なんでこんなところで寝てんの?風邪ひいたらどうするのさ!」
「あー、おはようー」
「結局あの後寝ちゃったのか」
「みたい、だなぁ」
 外は少しずつ陰りはじめ、はためいていた洗濯物は既に取り込まれたか姿を消している。起きたのは昼よりも前だった筈だから、それでも半日寝ていた事になるだろう。
「疲れてたのかもな………」
「そうだね。ここの所残業続きだったもんね」
「で、お前は台所で何してたんだ?」
 思い出したようにエドワードが口に乗せた言葉に、アルフォンスは目を泳がせた。
「あ、あーっと……うん」
「ん?」
「ええ、と……兄さん、甘いものは好きだよね?」
「ああ、無駄に好きだな」
「チョコ、好きだよ、ね?」
「おう」
 頷いて返したそれを見て、アルフォンスは踵を返す。
 暫し後、ちいさなココットと共に戻って来たその顔はいつにもまして挙動不審だった。
「作ってみたんだ、まずかったら食べるの止めていいから」
 合わされぬ視線、何処か不機嫌に見えるのは確実に照れだろう。
 そして、置かれたココットに満たされたものは褐色の物体。
 取り上げれば独特の香りと覚えのある香りが鼻をくすぐった。
「生チョコか。これ」
「うん」
 確かに初心者が創るには下手な固形よりも失敗が無いし何より美味いものが作れる。選択は間違えていないところだけは確実性を求める弟らしいなと心の中でごちたところで、スプーンが無い事に気が付いた。
 この手の容器に入れるタイプは柔らかな上に溶けやすいので、スプーンですくうのが一般的なのだが、相当弟は焦っているようだ。
 もともと、アルフォンスは料理が下手なわけではない。
 だが、計量に頼った料理を得意とするあまり、一辺倒な味付けになりがちなのだ。
 その反面、正確な計量が必要な菓子造りにはその才能は遺憾なく発揮されるという事をアルフォンスはイマイチ理解出来ていない。実際、弟の作るパン等は自分よりも出来がいいのだから。
 しかし、何をそんなに焦っているのか…と思いながら、カレンダーに目をやってエドワードははたと思い当たる。

 たしか、きょうは。
 恋人どうして贈り物をどうとかこうとか……

「なるほどなぁ」
 一言、それだけ発するとエドワードは迷う事無くココットの中に左の人差し指と中指を揃えて差し入れた。
 指先に乗る料だけ掬い上げると、そのまま指は口の中へ。
 下で拭い取るようにそれを落とすと、ゆるゆると溶けるそれを味わいつつ指は再びココットの中へと伸びる。
「ちょ、にい、さん?!」
「ん、美味いぜ?」
「それは良かった…じゃな…っ!」
 静止の言葉は、飲み込む息にかき消される。
 それ、が。
 持ち上げた指先から溶けて、とろけて、褐色の線を引いたのだ。
 そして、その線を追い掛ける朱く濡れた舌先。
 普段なら見せようとさえしない仕種に、息を詰めた。
「どうした?」
 にやり、と。
 浮かんだ笑みは確実に狙いを定めているのだ。
 アルフォンスは、その光景に再び息を飲んだ。
 蕩け落ちるそれ、は。
 そんな意図を想像していなかったと言えば嘘になる。
 だけれど。
 確かにその気になりさえすればとことんまでつき合ってくれる彼の人ではあったのだが、まさか想像以上にここまで乗って来るとは、正直予想外だったのだ。
「……どうしたのさ、やけに乗り気じゃない」
「さてねぇ?」
 楽しそうにチョコを掬い上げる指先は、所々褐色に塗れている。
「んー……ダークチョコに生クリームと蜂蜜、酒はダークラムと、少しだけハニーワインだな。オレの好きなトリュフの中身と同じ配分、か」
 纏わり付いたそれを舐めとると、一つ頷いて。
「美味いぜ?初めてにしちゃ上出来だな」
 にや、と笑ってチョコを載せた指が目の前に差し出されたのだ。
「すまん、今日だってこと忘れてた。またなんか買ってやるから今日のところは」
 空いていた右手は、何故かシャツの胸元をはだけにかかって。
 晒された胸元、鎖骨の間際に褐色に染まった指が横一文字に線を、描く。
「これで我慢しろ」
「……我慢しろ、って……そっちこそそんな事して、判ってるのかよ」
「判ってなくてお前の前でこんな真似するか?」
「さて、どうだか」
 体温に流れたチョコレートをそっと舐めとって、アルフォンスがくつりと嗤う。
「さっきより甘い」
「お前が甘くしたんだろう?」
「当然、と言わせてもらうよ」
 くすくす笑い合いながら、甘い香りのキスを重ねて。
 甘いのはお前だけで充分だ、とエドワードが囁いた。

拍手[2回]

昨夜いきなり武侠もののネタで盛り上がってしまった為に急に生み出されたちょっと東寄りな感じの暗殺者兄さんネタ(笑)
中華と言うか何と言うか。まあ金髪の人もあちらにはいるからいいか(ヲイ)



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 そう、そんなものがこの場にある訳が無いのだ。
 ひらりひらりと舞い踊るそれは。
 薄紅の、柔らかな布。
「……」
 ゆらゆらと揺らめき、風も無く空に踊るそれを操る、不思議な装飾の衣装を纏う娘が、一人。
 滑らかな金の髪を結い上げ、紅色の花飾りで飾り立てられたその姿はどのくくりにも当てはまらぬ異国のそれ。
 琥珀の瞳が、月も無い闇の中、やけに煌煌と煌めき。
 そして。
 ゆるりと漂う甘い薫りが、男達を誘うのだ。
 甘い甘い、咲き誇る花のような、あまやかな蜜の薫。
「……さ、さがれ!下がるんだ!」
 誰かが、それ、が何かを気取ったようだ。
 だが、その声が発せられるよりも早く、娘の腕がヒュウと空を斬った。
 指先が見えぬ程に長い袖から、金の花弁が冷たい音を立てて走りゆく。
 幾人かはそれを眉間等に突き立てられ、そのまま昏倒してしまった。
 かろうじてそれを逃れた者もいたが、逃げようと思った時には既に時遅く。その姿からは到底想像出来ない程の武術で瞬く間に全てを倒してしまったのだ。
「……ほう、なるほど」
 一人、多勢の輪に加わらず手も出さずその光景を見ていた人影が、ゆっくりと歩み寄った。
「これが噂に聞く、金の花…」
 それを聞いた娘はくつり、と笑みだけを零す。
「確かに、手に入れたいと諸候が挙って争う訳だ。その姿、その力……手の内に収め手折りたいと思うのは致し方無い事。是非私もその恩恵にあやかりたいものだ。悪いようにはせん。私の元へ来ぬか、娘よ」
 その言葉に、娘は高らかに笑い出した。
 到底、娘とは思えないその声や笑い方に、男は刮目する。
「やっぱり、オレをオレと理解出来るのはあいつ以外いないと言う事だ。残念だな、お前にはオレをその手に収める資格はない」
「な、なんだ、と……!」
「この身に流れる水に含む毒を受け止め切れず死んだ者は数知れず。そうなりたければこの身に触れるといい。その勇気がお前にあるか?」
 言われて男は己の周りを見回した。
 付き立つ金の花弁を赤く染めるように薄く引かれたそれは、人の血液。
 体液を幼い頃からの調練にて毒に変える秘術がある事は知られているが、外道としてその教えは廃れ、最早継承者すらいない筈。
「ま、さか」
「お前を、至上の歓喜と苦痛の果てに送ってやろうか?それとも……」
 しゅ、と衣擦れの音がして、男の胸元を爪先が掠める。
 はらりと触れてもいない筈の服の前が、横一文字に掻き切られた。
「オレのこの手で、地獄に送ってやろう、か?」




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ちょっと楽しかったのでこれ暫く書き続けそうな気配。
ううーん。
暗器とかつかわせたいけどうまく書けるかなぁ。

拍手[0回]

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